2010年10月24日日曜日

自由と野心

人類の自由を拡大してきたもの
1700年代後半にイギリスから始まった産業革命の後、300年足らずの間に人々の生活水準は飛躍的に向上した。
その要因が何で、どのような人々が社会全体の生活水準の引き上げを支えてきたのかは歴史を振り返れば見えてくる。

生活水準向上の直接的な要因は、工業化によって人手で行っていた仕事をオートメーション化したことだった。
設備の導入が製品の大量生産を可能にし、大量生産された製品がより多くの人々に安価に行き渡ることで結果的に社会全体の生活水準が押し上げられた。
一方で、生産性を上げる設備そのものを作った技術者の労働力としての価値が低下するとともに社会的地位も低下し、機械そのものを破壊するという1800年代のラッダイト運動につながる結果にもなった。
ラッダイト運動を引き起こした状況と、ソフトウェアの受託開発をしている中小企業のエンジニアが待遇が悪いとぼやいている今の状況はとてもよく似ている。
マジョリティの最小の共通項のニーズに適合する安価なサービスを提供するセールスフォースやGoogleのような破壊的イノベーターが現れ、従来型のソフトウェアの受託開発ビジネスは衰退の一途を辿っている。
テクノロジーに関わる人間ならイノベーションのジレンマを意識するのはもはや大前提の時代になっている。

エネルギーの分野ではより効率的なエネルギー生産を実現しようとする試みが行われている。
ビル・ゲイツ氏が取り組んでいる原子力発電の新たなアプローチが面白い。
濃縮ウランを生成する過程で生じる劣化ウランを使って100年間使える低コスト発電を実現しようとするもの。安全性などの課題でまだまだ解決すべきことは多いだろうけど、現状に満足せず前に進もうとする取り組みはやはり素晴らしいと思う。

TEDの本家で日本語字幕が見れます。
http://goo.gl/BcS6


バイオテクノロジーの分野でもまだまだフロンティアが広がっている。
iPS細胞の国際的な特許取得競争が一時話題になってはいたものの、実用化にはまだまだ時間がかかりそうではあるが。
将来的に個人の身体の一部を安価に複製できる技術を確立できれば、心疾患の患者がドナーを待たずに健康な心臓とすぐに交換出来たり、生存率の低い小児がんが完治するようになって最愛の子供を亡くすような悲しみがなくなったり、ダイエットを望む人が虫歯を差し歯に入れ替えるぐらいの気軽さで小さな胃と交換するなんて未来が訪れるかもしれない。

量的緩和をするかどうかが話題になっているけど、新産業を生み出すための規制緩和もやらずに金だけばらまいても民間の資金需要は増えないのではないだろうか。
サブプライムローン問題の時と同じように過剰な資金は新興国や原油や金や不動産に流れて資産バブルを引き起こす結果になるだけだ。
円高対策で為替介入をして輸出企業への間接的な優遇を行いつつ国民の税金を価値が低下している米国債に投じたり、日銀に対してマネタリーベースを増やすように圧力をかけて見せかけの信用創造を図ろうとしたり、公共事業で無理やり雇用を産み出すために利用者に必要とされないハコモノや道路を作るような意思決定をする政府や政治家に対して尊敬できないのは民間が苦労して生み出した富をくだらない用途のために使ってしまうことが根底にある。
貨幣進化論―「成長なき時代」の通貨システムで言及している「世界的にみると異様なほど恵まれた顧客基盤の上に胡座をかいている独占企業」が民間ならば淘汰されるだけだが、日本政府には税収というセーフティネットがあり、かつ総選挙は4年に一度しかないためにモラルハザードを抑止することも難しい。
競争原理が作用しない上に、法の下に税を徴収できて収入が安定しているとなればどれだけ有能な人材でも腐敗に飲み込まれるのは必然といえるかもしれない。

政治は安心して商取引ができる近代国家を形成するために不可欠であるし、金融は経済活動の流動化を図るためになくてはならない。
しかし、政治や金融が直接的に人々の生活水準を向上させることはこれまでなかったしこれからもないだろう。
社会をより自由で活力あるものにするのは民間のサービスや技術でしかない。

健全なる野心
一般的に野心というとマイナスイメージとして捉えられることがあるが、健全な野心と不健全な野心があると僕は考えている。
「社内で出世したい」「金持ちになって豪邸に住みたい」「偉くなりたい」というような個人に向けられた野心は全て不健全な野心の部類に入る。
「圧倒的に強い組織をつくりたい」「利権に胡坐をかいている連中の鼻を明かしたい」「大きな仕事を成し遂げたい」という野心はむしろ推奨されるべき野心だ。
健全なる野心こそがイノベーションを促進し、経済の新陳代謝を促進する。

下のグラフは過去10年間の国内の名目GDP、失業率、生活保護世帯数のデータをプロットしたもの。
GDPと失業率が見事に逆相関になっているのは当然として、生活保護世帯数は右肩上がりになっている。
お上に飯を食わせてもらおうとする人が増加の一途を辿っているのは、独立自尊の精神を携えた人が如何に少ないかということを示唆しているのかもしれない。
政府からの補助金に頼る農家や企業が少なからずあるが、税金で延命されるような組織というのは遅かれ早かれ潰れるのだからさっさと潰してしまったほうが国民のためにもそこで働く従業員のためにも良い。
それを無理に雇用の創出を謳い文句にして将来性のないビジネスモデルを延々と続けさせようとするから経済の新陳代謝が行われなくなる。
温情主義こそ全体を沈没させる原因なのだと僕は思う。







資本集約型産業の時代から労働集約型産業の時代へ、そして知識集約型産業へ移行しつつあるなかで業界のリーダーを目指すことと、業界のルール・既存のビジネスのルール・社会のルールさえ変えてしまう画期的なプロダクトを創造することは不可分の関係になっていくに違いない。
クリエイティビティと健全なる野心こそがこれからの経済の原動力になると僕は信じている。

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