2010年4月18日日曜日

日本的な良さが仇となる日

1992年のバブル崩壊とともに始まった日本の失われた10年は、2002年にIT産業の旺盛とともに終結したかにみえた。
バブルがあれば必ず崩壊が起こるという経済原理にもれることなくITバブルは崩壊し、保守的な思想に支配された行政府に所属する公務員の恣意によってあらゆる規制が強化されはじめた。



過剰な規制による弊害

経済成長重視とお題目を掲げつつ、経済を停滞させるような規制が次々と施行(されて || されようとして)いる。

▼貸金業規制
消費者金融を利用する顧客はギャンブルや多額の買い物をする消費性向の高い人がマジョリティなので、消費者金融→顧客→企業というキャッシュフローのサイクルが短期間で行われていたため経済成長に貢献していた。
出資法と利息制限法の中間をさすいわゆるグレーゾーン金利が廃止されたことで、不当利得返還請求によって債務者から徴収した金を返還する必要に迫られた上場している消費者金融株は軒並み下落した。
これを機に消費者金融は貸し出しを優良顧客に絞りはじめたため、消費性向の高い人に金が渡らなくなり経済停滞要因の一部になっている。

▼派遣業規制
登録型派遣の規制法案が審議され始めた。
【元記事】労働者派遣法改正案、衆院で審議入り
私が本業としているソフトウェア開発を含む26業務以外の人は原則禁止になるという法案のようだ。
この法案が可決されたらどうなるか?特別なスキルを持たない人の失業が増加するだろう。
製造業や接客業など、それほど高度な知識を必要としない業種で賃金の高い日本人を積極的に雇用しようとする企業は少ない。
身近なところで実感するのは、99円ショップやコンビ二でアルバイトをしている韓国人や中国人が増えたことだ。フランチャイズ展開している企業などは特に低賃金で働く外国人労働者を好んで採用する。
考えても見てほしい。あなたが経営者で、賃金原資には限りがあるのに決まりきった作業をこなすだけの人材の賃金を多く負担しなければならないとしたらどうするか?導出する解は”雇用しない”になるだろう。

韓国では2007年に同様の法案が施行されたが、その後の事実上の失業率は約13%にも上っているという。
雇用を守るための法案が失業を増加させたこの事実には重要な教訓がある。
労働者を過剰に保護しようとすれば、雇用される機会が失われるというトレードオフが存在するということだ。

▼レバレッジ規制
以前の記事にも書いたFXやCFDへのレバレッジ規制によって取引する魅力がなくなり、プレイヤーは減少するだろう。プレイヤーが減ればその商品を提供する企業は海外に活路を見出すために拠点を移す。
クリック証券が韓国に上場申請したのは賢明な経営判断だと思う。
【元記事】クリック証券、韓国コスダック市場に上場申請-日本企業で2社目

クリック証券の代表は2007年時点では国内の上場を目指していた。
【元記事】クリック証券、高島秀行社長「マザーズ上場めざしたい」

もはや日本のベンチャー企業がコーポレートガバナンスやコンプライアンスのような経済活動の副次的な作業に莫大なコストをかけることを強制するガンジガラメの国内で上場するインセンティブはないのだ。

この手の規制法案が出る度に”北風と太陽”の童話を彷彿とさせる。
旅人にコートを脱いでもらいたければ、力ずくではなく、自ら脱ぎたくなるような環境をつくることだ。
企業を誘致しようとするならば、法人税を減税し、労働法を緩和するという太陽の役割を行政府が担う必要がある。

日本が抱えるリスク

「孤高の日本」にリスクはないのか(英フィナンシャルタイムズ誌)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3268
多額の債務を抱えた日本経済(英エコノミスト誌)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3269

上記の記事では政府の債務残高がGDP比で180%に及ぶことに言及している。
低金利を持続し、ほぼ全ての国債を国内投資家が保有している今はデフォルトリスクは高くないというが、今後20年に渡って日本人が膨大な額の政府債務を負担し続けるという確証はないし、サスティナブルなStructureとも考えられない。

サブプライムローンの下落が始まった当初、一部の人たちは問題が深刻化するということを各メディアで警鐘していた。多くの国民にはそれが理解できていなかったが、2年ぐらいのタイムラグがあって解雇される人々が増え、実体経済に大きく影響がでて初めて実感するようになった。

本当のリスクは目に見える債務残高の規模なんかじゃなく、目には見えない人々の危機意識のなさだ。

協調と創造のトレードオフ

ゼロベースで考えた創造的なアイディアを形にするのは言うは易し行うは難しだ。
その難しさを日本的な良さがなおさら難しくしている。

話題をかっさらったウォークマンの誕生は、当時名誉会長だった井深大氏の独断によって生まれたものだ。

それから時がたち、Iphone、IPad、アンドロイド搭載の携帯、yahoo検索、google検索など今やアメリカ発のプロダクトが世間の耳目をかっさらっている。これらのプロダクトは全て世界中から集まる優秀なエンジニアの採用に力を入れているシリコンバレーの企業から生まれている。まさに世界はシリコンバレーの頭脳から創造されていると言える。
彼らの思考プロセスは、官僚機構のようなルールで人々に行動を強制するという思考プロセスではない。アイディアによって生み出された製品やサービスを使って人々が行動を変えたくなるような世界を想像する思考プロセスなのだ。


日本の国民性の良さとして挙げられる「空気を読む」「出しゃばらない」「リスクを取らない」という特性の中ではこのような独創的なアイディアを形にするのは難しい。大企業でステークホルダーが増えすぎている組織ならばなおさらだ。
他者の意見を重視しすぎると自らの創造性が失われるというトレードオフが存在する。顧客の意見に従ってプロダクトを生み出しても大してヒットしないという事があるのは、”こんなことができるのか!?”というサプライズがなく、熱狂するほどの興奮を与えられないからだ。
先進国の企業だけをライバルにしていればよかった時代は終わり、これからは世界中の企業がライバルとなっていく。そんな時代に”日本的な良さ”に重きを置くことはハイリスクなのかもれない。

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