2009年10月3日土曜日

生産性を向上させるために


日本の労働生産性が低いってことは以前から言われている。そこで生産性を上げるためにはどうすれば良いかを考えてみた。ちなみに何のために生産性を向上させるのかは単純明快で「効率的に仕事をこなして利潤を生む」ことが目的。

生産性向上のための課題
突き詰めて考えると課題は大きく3つに分類される。
・選択と集中
・業務の自動化
・最適なフレームワークの適用
この3つについては後回しにして、まずは会計上の労働生産性から。
労働生産性=売上総利益÷従業員数
コレを1人当たりになおすと
稼いだ粗利益÷労働時間=利益/時
【例】
労働時間=1日8時間
労働日数=月22日
1ヶ月の粗利益=100万
100万÷(8時間×22日)=5681円/時
次に日本の労働生産性についてのデータを見てみる。
(出典:社会経済生産性本部(理事長:谷口恒明)は2007年版)

OECD加盟国で日本は20/30位になっている。

製造業とサービス業を比較するとあきらかにサービス業の生産性が低い。2005年までのデータしかないんだけど、製造業の売上げを支えたアメリカの過剰消費は金融危機の影響をもろに受けて現状では製造業に破壊的なダメージを与えている。この状況をまずいと思った人たちが内需を拡大してサービス産業の生産性をあげようといってるんだね。

選択と集中
俺が感銘を受けた本にビジョナリーカンパニーがあるんだけど、この本には単純だけど強力な理論が展開されている。それは”ハリネズミの概念”というもの。
内容を少しだけ紹介すると、キツネはいつもあらゆる手を使ってハリネズミを食べようとするんだけど、毎回ハリネズミはクルっと丸くなってことごとくキツネの攻撃をかわす。何度も何度もキツネは試行錯誤してハリネズミをものにしようとするけど結局ハリネズミの得意技に勝てないっていう話。
これはスポーツ選手でも同じことが言える。元フィギュア選手の荒川静香さんは得意のイナバウアーで金メダルを手にした。出来るかどうか不確実な4回転スピンをするよりも得意とする技を選択し、集中して訓練し、完璧に披露することで確実に勝利を手にするというまさにハリネズミの概念の体現者なんじゃないかな。
そしてもうひとつ重要な事実として記されていたのは、選択と集中を行わないアメリカの上場企業群がことごとく失墜していったということ。あっちが儲かると思えばその事業に手を出し、こっちが儲かると思えばそこにも手を出す。得意とする業種とは無関係な事業を行うために人、物、金を分散してしまい結局はどの事業でも選択と集中を行っている他社に負けていったというのはなるほどと思える。
この概念は物理学でいうところの「力(force)」に通低している。力は質量と加速度の数値で決まる。
力=質量×加速度
質量(人、物、金)と加速度(時間)が複数箇所に分散すると1つ1つの力(市場支配力)は弱くなる。だから選択と集中でマーケットシェアNo1を目指すほうがいいっていうことなんだね。ただしそのマーケットに金脈が眠っているかどうかは当然選択するときに検討する必要がある。シェアNo1を取ったのは良いけど10億円程度のマーケットしかないんじゃお話にならないからね。
複数の仕事を同時にこなすマルチタスクが良いのか?それとも1つの仕事に集中するシングルタスクが良いのか?という疑問に対して選択と集中が有益であることを裏付けるような興味深い記事があった。
いずれの記事もマルチタスクに疑問を呈する記事なんだけど、人間の脳を約500兆のシナプスと約1000億のニューロンで形成されるパラレルコンピューターと考えるなら、同じマシン上で複数人のDNA解析をするマルチタスクよりは1人のDNA解析を集中して行うシングルタスクのほうがスループット(単位時間あたりの処理能力)は向上する。
異なる情報にもとづく作業をするのは切り替えに時間を要するからその分タイムロスが生じるし、脳細胞に流れる電気信号のパターンも変わる必要があるから特にソフトウェア開発みたいな集中力を必要とする仕事にマルチタスクは向かない。逆に脳にほとんど負荷がかからない単純作業ならばマルチタスクのほうが効率はあがる。

業務の自動化
毎日手動で行っている作業は少々の時間を投資してでも自動化したほうが長期的に考えて生産性の向上につながる場合が多々ある。
【例】
労働日数=22日/月
労働時間=8時間/日
作業時間=30分
作業内容=excelから売上等のデータを別のexcelにコピペしてB/S(損益計算書)・P/L(貸借対照表)・C/F(キャッシュフロー計算書)を作成する
この単純作業に1年で16.5日(132時間)使っている計算になるけど、これらを全て自動化する簡単なソフトを3週間かけて作っても1年もしないで元が取れる。
業務上必要になるけど繰り返しになる仕事は極力自動化してしまうほうがいい。

最適なフレームワークの適用
ソフトウェア開発ではやり方を変えるリスクよりも変えないリスクのほうが大きいというのは良書で語られていることなんだけど、これはビジネス全体のフレームワークにも適用できる考え方だと思う。学術的には多くの方法論が日々生まれているみたいだけど、実業界ではなかなか取り入れられていない。
たとえば魚をとるにしても多くのやり方がある。
海にもぐってモリを刺してとるのか?
サオを使って一本釣りをするのか?
網を使って一度に多くの魚を取るのか?
いっそのこと魚を養殖して機械を使って自動的に市場まで運ぶようにするのか?
当然業種によって求める効用も違ってくると思うけど、必要なリソース(時間と金)を最も削減できることに焦点を絞ってフレームワークを選んでいくのがいいんじゃないかな。

生産性向上案まとめ
・電話やメール対応、業務連絡、その他もろもろのキャッシュを生まない雑務は後回しにしてまとめて行う。
・緊急時用のメールアドレスや電話番号を関係者に伝えておいて、それ以外からの連絡は余裕があるときだけ対応する。
・1つのタスクが終わるまで別のタスクに手をつけない。
・イテレーティブ(繰り返し)な作業は出来るだけ自動化。
・今までのやり方に常に疑問を投げかけ、さらに効率的な方法を日ごろから考えて実施する。

最も重要な要素
生産性向上のカギとなるのはやっぱり最後は"人"になってくる。どんな仕組みもシステムも人が作っている限りいくら方法論を展開しても現場の人に実行しようとするインセンティブが働かなければ絵に描いた餅でしかない。組織として何かを成し遂げようとするなら個々人の情熱を掻き立てるようなビジョンと、それを達成したときに受け取れる報酬を明確にしておく必要があると思う。業績の上がらない組織を観察してみると、
・残業したほうが給料が高くなるというシステム上の欠陥がある
・コスト削減や売上増加にともなって発生するはずの報酬が成果を上げた人たちに渡っていない
・個々人があきらめにも似た学習性無気力状態になっている
という日本の古い官僚制度と似たような構造になってしまっていることがある。
この問題を解決するためにはやっぱり組織のリーダーが多くの事を学び、インセンティブが働く環境を作り、全体が上手くワークしていく仕組みを適用していくしかない。たまに「エンジニアは低い報酬でも好きにやらせれば勝手に働く」みたいなことを言う経営者がいるけどそれは非常に残念な思考プロセスの典型で、そういう意識のもとに優秀な頭脳が集まることはないし、集まっても最大限に活用されることはない。

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